書籍レビュー:[音声DL付]翻訳スキルハンドブック~英日翻訳を中心に アルク はたらく×英語シリーズ
『翻訳スキルハンドブック~英日翻訳を中心に』は、英日翻訳のプロセスとスキルをお手軽に学べるマニュアル本です。
翻訳家デビューしたばかりの新人さん、翻訳家を目指している学生、社内で翻訳を頼まれている会社員はもちろんのこと、日本語の表現力やリサーチ力、英文の分析力を向上させたい人にもピッタリの一冊です。
英日翻訳とは、英文の真意をしっかり理解し、テキスト内容を日本語の枠組みの中でもう一度「再生産」するプロセスです。
従って、よい翻訳をするためには、この再生産プロセスにおける「正確性」と「効率性」を磨き、「原文分析スキル」「リサーチスキル」「ストラテジースキル」「翻訳スキル」「校正スキル」の5つを身につけなければなりません。
本書の特徴はこれらの翻訳スキルを学べるだけでなく、筆者が提唱する「飽きずに続けられる英語の勉強法」によって、本質的な英語力を養うヒントが得られる点です。
翻訳家を目指している人もそうでない人も、英語学習に疲れた時にこそ、ちょっと立ち止まってページをめくってみましょう。
いつもと違った角度から英語を見つめてみると、思わぬ発見があるかもしれません。
【楽しく英語を学習する方法】
英文法の本を一冊手元に置く
⇒英語を介して、自分が本当に好きな趣味に没頭する
⇒分からない表現が出てきた時に英文法の本を開き、飽きない程度に文法を調べる。
筆者は、語学の上達には「楽しむ」という感覚をいかに維持するかという点が重要であると強調しています。
なので、いきなり14時間も勉強したり、英字新聞を買い始めたり、無謀な挑戦をするのはご法度です。
「英語」を勉強するのではなくて、「英語」で自分の好きな分野を学ぶこと、すなわち、自分の趣味と勉強を結び付ける回路を見つけることが語学上達の近道なのです。
お気に入りの歌手の歌なら、たとえ何語で書かれていても、自発的に歌詞を調べて口ずさんでしまうものです。
ゴールのない語学の道そのものを目標にしてしまうと挫折の原因になるので、よほどの語学マニアでない限りは、自分の趣味を追求していく過程で英語を少しだけ取り入れてみてはいかがでしょうか?
案外、その方がめきめき上達するかもしれませんよ。
【翻訳チェックポイント集】~翻訳編~
- 読みやすさを意識した訳文になっているか。
- 主部と述部(S+V)の関係を明確に訳しているか。
- SとVが離れすぎていないか。
- 訳文が長過ぎないか(必要に応じて二文に分ける)。
- 品詞の転換を効果的に使っているか。
- 想定読者に即した適切な文体・語句を使用しているか。
- 語順を逆にして訳してみたか(うまく訳せない場合に)。
- 「情報の優先度」を考えた上で訳しているか。
- 言葉の相性(コロケーション)を検討しているか。
- 言い換え(パラフレーズ)を有効に活用しているか。
- 固有名詞の訳に注意を払っているか。
- 修飾語の位置は適切か。
- 「単語」ではなく「意味」で訳しているか。
- 指示語を適切に言い換えているか。
- 訳文に受身形を多用していないか。
- 必要に応じて訳文に情報・表現を補っているか。
本書では、翻訳プロセスにおけるチェックポイントが分かりやすくリストアップされているので、重要な項目を素早く確認することができます。
この秀逸なリストと至れり尽くせりの解説を道しるべとして丹念に作業を行えば、短期間で洗練された翻訳を完成させることができるようになるでしょう。
どんなにAIが発達しても、機械翻訳が当たり前になっても、最後はどうしても人間の力が必要な分野が翻訳です。
そして、結局のところ、翻訳を支えているのは国語力なのであり、本書を読み進めていくうちに、更に高度な日本語を身に着けたい、もっと教養を深めたいという欲求に駆られるに違いありません。
インターネットの普及によって、昨今、翻訳はより身近なものになりました。
従来の映像翻訳や文芸翻訳にとどまらず、BBSやSNSの翻訳も365日24時間必要とされており、クラウドソーシングを通じて、いつでも誰でも翻訳者になるチャンスが用意されています。
『[音声DL付]翻訳スキルハンドブック~英日翻訳を中心に アルク はたらく×英語シリーズ』で身に着けた翻訳スキルを活用すれば、あなたの趣味や専門分野の知識が、英語というツールによって意外な方面で役立つかもしれません。
机に向かって勉強するのに飽きたら、今日は新しい自分を発見する読書の旅に出かけましょう。